テレビに出演させてもらいました!
RKB毎日放送共感テレビ(2020年1月21(火)14:00~放送)
「受験を控えたお子様を持つ保護者の方へのアドバイスを臨床心理士の立場からお願いしたい」ディレクターの方から電話があったのは放送5日前の1月16日でした。教室でロケがあったのは、その翌日。文字通り突然のオファーでした。慌ただしい冬期講習が終わって、ちょうど一息ついた時期です。まず頭に浮かんだのは、「心理士としては人前に出るのは避けたほうが良いのでは」ということです。心理士には守秘義務があり、相談に来てくださっている方や、これから来られる方が不安になられないよう配慮するためです。一方で私は、もっと臨床心理が社会に浸透して、相談が身近になることを願っています。フリースクールが至る所にできて、学校以外に学習できる場所がどんどん増えることを願っています。教室の取り組みをしてっもらえる、せっかくの貴重な機会を引き受けることにしました。教室に来ている生徒たちも、きっと喜ぶだろうなとも思いました。
*改めて臨床心理士について考えたこと
教室でお会いしたディレクターさんはとても優しくてユーモアがあり、仕事に熱心な素敵な方でした。「受験生を持つの親の心得」を下調べしてきてくれており、私の意見も求められました。普段から、アドバイスを求められれば、知っていることはできる限り、分かりやすくお伝えすることを心がけています。ただ、この時、私は何も答えられませんでした。調べてもらった「親の心得」は私も納得いくものばかりでした。それでも、同じようなことを話すのにものすごく抵抗がありました。
私は心理学の中でも臨床心理学を大学と大学院で学びました。講演会や勉強会を除けば、私がフィールドにしている臨床では、個別の相談に対して、答えのないことを一緒に考えることを大事にします。臨床心理士と名乗りながら、「こうすべき」とか「こうあるべき」ということが、どうしても言えませんでした。
*テレビで本当に伝えたかったこと
そういうわけで、ディレクターさんは聞きたかったことを聞けなかっただろうなと思います。それでも、色々と引き出してくれ、話す内容を一緒に考えてくれたおかげで収録が終わりました。カメラを向けられてガチガチに緊張する私を見ても、「私が何とか編集しますから!」と優しく励ましてくれました。色んな仕事を知るのが好きな私としては、テレビの仕事を知ることができたのも、出演して良かったことです。どんな風にテレビに映るか不安な時に「楽しみにしてます!」と言ってくれた生徒たちや保護者の方、「録画してみるよ」と言ってくれた友人たちに励まされました。
私は普段、話をすることを仕事にしているはずなのに、緊張してしまい思っていることが話せませんでした。反省を込めて、これからもっと多くの人の役に立てるように、表現力を磨かなくてはと思います。文章だとわりかし饒舌なので、テレビでお伝えしたかった、私の考える「受験生を持つ親の心得」を掲載しておきます。テレビ放送に併せて大慌てで作ったので、言葉遣いが変なところがあったり、読みにくかったりすると思いますが、興味のある方は、どうぞご覧ください。
受験を控えたお子さんを持つ保護者の方から良くある3つのご相談
ご相談その1「子供が全然勉強しません!」
小学生から中3の10月頃まで(進路が決まるまで)に良くお聞きするご相談です。家ではダラダラと過ごしていたり、テスト前なのにテレビを見たりゲームをしたりして、腹が立つということを良く聞きます。また、勉強しなさいと言うと、反発ばかりして全然言うことを聞かないというご相談も多いです。
「お子さんも悩んでいます」
実際に全然勉強しないお子さんもいますが、勉強しなくちゃいけない、した方が良いとほとんどの受験生が思い、どうやったら勉強ができるようになるか悩んでいます。中学受験をしていないお子さんは、高校受験で初めて受験を経験します。まだ勉強をする習慣が身についていないお子さんも多く、どうやって勉強をすれば良いか分かっていません。大人はどういう勉強方法をすれば、どのくらい効果があるかということを、経験的に知っていますが、子どもたちはまだその方法を知りません。自分なりに試行錯誤をしますが、思ったような成果が得られずに自信を失います。また、知識が身につくまでは、勉強は退屈な反復練習を繰り返す必要があり、成果も出づらいため、楽しさを知る前に飽きてしまうことがほとんどです。勉強に最も大事なのは本人のやる気です。ただでさえ、自信を失いがちな状況がそろっているのに、家でお子さんの自信を失うようなことは避けた方が良いでしょう。自信がなくなればなくなるほど、自信を回復しようとして反抗しがちです。言われたことをそのままやることは、心理的な抵抗が働きやすくなります(心理的リアクタンスと言います)。「うちの子はできもしないのに、自信だけはあって、できると思い込んでいる」といったこともよく聞きますが、お子さんは「思い込んでいる振り」をしていて、実際は不安な場合が多いようです。否定したくなる気持ちはぐっとこらえて、「自信を持っているなら安心した」と肯定的に返して欲しいと思います。「勉強しなさいと言って勉強するならどうぞ怒ってあげてください」とお伝えすることもありますが、ほとんどの場合はその方法が上手くいかないことに保護者の方も気づいています。ご自身の方法では上手くできないと気づかれ、ご相談に見えられた際に、塾でお子さんの状況を説明しつつ、志望校合格に必要な成績を得るための具体的な勉強の量と方法をお伝えすると、保護者の方は安心されます。
「スマホ禁止!について」
スマートフォンやテレビ、漫画やゲームを禁止にした方が良いかと聞かれますが、楽しみを取られる子どもたちのことを考えると、それは止めてあげた方が良いですよとお伝えしています。実際に禁止しているご家庭が、禁止していないご家庭のお子さんに比べて成績が上がるかというと、そういうわけではなさそうです。受験前になると、「遊んでばかりいてはだめだ」「誘惑に負けないためにどうすれば良いか」と自分から考えて「漫画は段ボールに入れることにしました」「スマホは親に預けた」と言ってくることがあります。実際に、スマートフォンやゲームや漫画を、私に預けるお子さんもいらっしゃいます。使い方のルールをご家庭で決められるのも良いと思います。保護者の方の意見を押し付けるのではなく、お子さんの考えを優先してあげてください。「ルールを決めても守れない」という方もいらっしゃいます。確かに有言実行にできないこともありますが、その場合、失敗しても責めずに、また挑戦しやすい環境にしてあげるほうが良いでしょう。腹が立つお気持ちは分かります。
「保護者の方が勉強を教えることの功罪」
保護者の方が勉強を教えてあげることは、お勧めしていません。よほど信頼関係がある場合は良いと思いますが、できないところに注意が行きやすく、上手くいかない場合にどうして分からないのと責任を子どもに押し付けがちです。多くの場合、子どもがするのを待ってあげずに親が先に動いてしまうため、勉強が身につきません。また、参考書を買ってあげるのも、ほとんどの場合は必要ありません。学校や塾で十分以上の量をもらっています。思春期は自己肯定感を育てる時期です。親から教えてもらったから、塾に通ったから、勉強ができるようになったのではなく、自分で頑張ったからできるようになったという自信が大切です。もし何かご用意されるのであれば、普段は買えないようなカッコいい筆箱や鉛筆やノートなどの勉強道具を一緒に選んであげてくださいとお伝えしています。ただし、使ってくれずに放置されてもがっかりしないようにしてください。腹が立つと思いますけど。
「保護者の方ができる最も大切なこと」
保護者の方ができる最も大切で、最も大変なのが体調管理です。勉強ではなく、体のことを気にしてあげることで、保護者の方の応援する気持ちが子どもたちには伝わります。夜更かしをし過ぎてはいないか、暗いところで勉強をしていないか、食事は十分にできているか、食べ過ぎていないかといったところを見てあげてください。実際に勉強をしていないように見えても、「勉強いつも大変でしょう」、だらだらしていても「頑張ろうとしているのは分かっているよ」などと普段と違う声掛けをするのも良いと思います。気味悪がって勉強してくれるかもしれません。保護者の方も、是非、試行錯誤してみてください。
「禁止事項は…ありません!」
これをしてはいけません!というような禁止事項は、保護者の方には言わないようにしています。なぜなら、すでに禁止事項をしてしまっている方が多いからです。保護者の方を否定することは、相談ではまずしません。昔のことを引き合いに出さない方が良いとか、一度にたくさんのことを言わずシンプルに伝えるとか、親ではなく第3者から伝えてもらった方がお子様には伝わりやすいとか、細かいテクニックはたくさんありますが、最も必要なことは保護者の方にも自信を持ってもらうことだと思っています。しきのきでは、「お一人で悩まれずに一緒に考えていきましょうね」とお伝えしています。ただ、保護者の方からの期待は、薬にもなり毒にもなります。適切な量を考えて与える必要があります。ひょっとすると、思わぬ副作用が出るかもしれません。「大学までは行って欲しい」と自分の希望を伝えたり、他のお子さんと比べたりするのは劇薬です。使うタイミングと方法は十分に考えて、お子さんのやる気や自信が無くならないようにしながら、期待される気持ちをお伝えください。
ご相談その2「子供が受験に不安になっているが、どう接すれば良いか」
受験前1ヵ月から多くなるご相談です。不安になられるお子さんの多くは、真面目に勉強に取り組んできたお子さんです。
「注意しておきたいお子様の状態」
中には、「寝つきが悪いようだ」「朝起きられない」「食欲がない」「朝から学校に行けない」といった症状がでるお子さんもいらっしゃいます。お子さんにとっては受験という非常事態なので、様子がおかしくて当然なので、あまり些細な変化に敏感にならなくて良いでしょう。ただ、上記の様子に加え、体重の増減、落ち込んだ様子や、不注意の状態が継続して続くような場合は、専門家に相談したほうが良いかもしれません。ゆっくり話を聞いてあげることだけでも、症状が改善することがあります。私が受験前に不安になり過ぎているお子さんとお会いする場合、今抱えている不安を話してもらいながら、今まで頑張ってきたことの振り返りや、どうして頑張りたいと思ったかといった気持ちを話してもらうことで自信を取り戻してもらいます。場合によっては「つらいなら学校を休んで良いんだよ」「休んだ方が成績が上がる人もいるよ」といったことを伝えることもあります。
「緊張や不安を軽くする方法」
塾の生徒達には、受験で緊張したときの対処法を3つ教えています。1つは深呼吸です。意外とお子さんたちは深呼吸の仕方を知りません。姿勢が悪いと、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなってしまいます。3で吸って7で吐くように伝え、練習させると上手くやれるようになります。呼吸を整えるだけでもリラックスできます。2つ目はイメージです。間違えたらどうしよう、全部解けなかったらどうしようではなく、1問解いたら少しずつ合格に近づいているというイメージや、合格して高校に通うイメージ、試験が終わって家でリラックスするイメージをすれば良いよと伝えています。イチロー選手や本田選手が行うルーティンも紹介します。しきのきでは「普段も、本番でも名前はゆっくり丁寧に書きましょう」と伝えています。「受験会場に行って、名前を丁寧に書いたら、ほとんどは合格したようなもの」とも伝えています。最後は、神頼みです。お守りを持ったり、先生と握手すれば合格するよと伝えて見たり、げんをかついで「左足から教室を出る」といったお子さんもいました。保護者の方や学校の先生、友達から応援してもらっています。一人じゃないと思うことで、勇気もわきます。
「保護者の方ができること」
保護者の方に対しては、「大丈夫だよ」「心配しなくても良いよ」と伝えるより、「一緒に心配してください」とお伝えしています。真面目に取り組んできたお子さん程、心配し過ぎて上手くやれない自分を責めます。心が弱いのではないかと不安になります。心配にならないようにするより、心配になっても良いんだ、誰もが心配になるんだと伝えることで、不安が解消される場合が多くあります。私はカウンセリングで「ロゴセラピー」という心理療法を専門にしていますが、ロゴセラピーには「逆説思考」という考え方があります。緊張している人に「緊張しないでください」というと、より緊張してしまうことが多いです(まさに私が取材を受けた時の状態でした!)。緊張や不安が強い方には、「良い緊張感ですね」と伝えたり、極端に言えば「もっと緊張して良いですよ」と伝えることで逆に緊張がほぐれることがあります。この「逆説思考」は、自分を責めないし、発想の転換があってユーモラスなので私は好きで良く話をしています。試験中に集中できないのではと不安になるお子さんも多いですが、そもそも人間の集中力は1時間も持たないので、集中して実力を発揮しなくても良いので、集中しなくても解ける問題から解くようにと伝えています。
ご相談その3「子供より親の方が焦っています」
しきのき学習教室に通う保護者の方からは一番多く聞かれる内容です。11月から受験前までに多いご相談です。
「ご安心ください」
ほとんどの保護者の方は、お子さんに対してあまり口やかましく勉強しろと言わない方が良いと思われているようです。実際、「勉強をしなくなったのは私が勉強しろと言い過ぎたから」と話される保護者の方も多くいらっしゃいます。そういった保護者の方は、できるだけお子さんのことは気にしないようにされているようです。それでも家での様子を身近で見ていると「何も考えていないのではないか」「自分の時はもっと大変だったのに」と、保護者の方がお子さんより心配になられるようです。お子さんは学校や塾で、どれだけ頑張ってきたか分かっています。周りの友達や先輩の話を聞いて、どれぐらい勉強をすれば高校に合格するのか、情報を親以上に持っています。安心するようにお伝えすることで「やっぱり私が不安になっているだけなんですね」「できるだけ邪魔しないように見守っていきます」とおっしゃられることがほとんどです。
まとめ
前置きでも述べましたが、これまで大切に子育てをされてきた保護者の方に対して、私が言えることはごく些細でわずかなことだと思っています。相談をしていただくことで、保護者の方の考えが整理されるため、ほとんどの方がご自身で答えを見つけていかれます。
「一人で抱え込まずにお子様や周囲の人と一緒に最善の方法を考えること」が私の考える「受験前の心得」かもしれません。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。